結論から言おう。退職代行サービスを使ったという事実だけで、転職や再就職の道が閉ざされることはない。
採用する企業側には一定の慎重姿勢があるのは事実だが、実際に退職代行を使った人の多くはその後スムーズに転職を実現している。
このギャップこそが、この記事で最もお伝えしたいポイントだ。
「退職代行を使ったら、次の転職で不利になるのでは」
そう不安に思ってこのページにたどり着いたあなたに、まずは客観的なデータと、実際に退職代行を経験した人たちのリアルな声をお届けしたい。
退職代行 転職 不利は本当か?企業調査が示す慎重姿勢
結論、企業の約半数が「採用に慎重になる」と回答しているのが実情だ。
東京商工リサーチが2026年4月に発表した「企業の退職代行に関するアンケート調査」(2026年3月31日〜4月7日実施、有効回答6,425社)によると、応募者に退職代行の利用履歴があると分かった場合、「採用しない」と回答した企業は26.0パーセント、「採用に慎重になる」と回答した企業は49.3パーセントにのぼった。
単純に合計すれば、実に4分の3以上の企業が何らかのネガティブな反応を示す可能性があるという計算になる。
数字だけを見れば、確かに厳しい現実が浮かび上がってくる。
私はここで、この数字から目を背けるつもりはない。
現実を直視したうえで、次に紹介するもうひとつのデータと照らし合わせてほしいのだ。
なお同調査では、2024年1月以降に退職代行を利用した退職者がいた企業は全体の8.7パーセントで、前回調査(2025年6月)から1.5ポイント増加している。
利用そのものはすでに珍しい話ではなく、着実に社会へ浸透しているというのが現在地だ。
退職代行を使った本人はその後どうなった?実態調査の結果
一方で、退職代行を実際に使った人の約7割が、すでに転職を実現しているというデータもある。
労働基準調査組合が運営する退職代行サービス「退職代行ローキ」が、同サービスを利用して退職した100人に行った調査によると、「すぐに転職できた」人が47パーセント、「数カ月以内に転職が決まっている」人が21パーセントで、合わせて68パーセントの人がすでに転職を実現していた。
さらに同調査では、「退職代行を使った人はやっていけない」という世間の見方について、「まったくそう思わない」「あまりそう思わない」を合わせて78パーセントが否定しており、キャリアへの悪影響が「まったくない」「ほとんどない」とした人も73パーセントにのぼった。
「悪影響があった」という回答はゼロパーセントだったことも、当事者の実感として見逃せない数字だ。
企業側の慎重姿勢を示すアンケートと、当事者側の転職実態調査。
この二つを並べると、大きなズレがあることに気づくはずだ。
採用担当者の「建前としての慎重さ」と、現場で実際に起きている「転職の実現しやすさ」は、必ずしもイコールではないということである。
面接で退職代行の利用を聞かれることはあるのか?
結論として、面接で退職代行の利用を聞かれるケースはごく少数だ。
先ほどの退職代行ローキの調査で、転職活動の面接時に退職代行の利用を聞かれたかを尋ねたところ、93パーセントの人が「質問されなかった」と答えている。
これは非常に重要な数字だと筆者は考える。
企業側が「採用に慎重になる」とアンケートで答えていても、実際の面接の現場では、そもそも退職代行の利用歴を掘り下げて質問すること自体が少ないのだ。
理由として考えられるのは、退職代行を使った経緯そのものより、前職での経験やスキル、退職に至った実質的な理由の方が採用判断において重視されているという実務上の事情だろう。
また、弁護士が監修する解説記事でも、代行業者や弁護士には守秘義務があり、前職の会社が退職の経緯を転職先に伝えることは通常ないとされている。
さらに近年は個人情報保護の観点から、転職先が前職に対して詳細な調査を行うこと自体が一般的ではなくなっている。
こうした背景を踏まえると、「聞かれない」という結果には一定の合理性があると言える。
実際、任意で利用経験を「伝えた」と答えた人の中にも、それが不採用につながった事例は確認されなかったという調査結果もある。

転職後の年収や労働条件はどう変化したのか?
退職代行を使って転職した後、年収は「変わらない」人が最も多く4割にのぼる。
同調査によると、転職後の年収は「変わらない」が40パーセント、「上がった」が32パーセント、「下がった」が28パーセントという結果だった。
上がった人と変わらない人を合わせると7割を超えており、退職代行の利用が年収に致命的な悪影響を与えるとは言い切れない数字だ。
さらに注目すべきは、労働条件そのものの変化である。
転職後の状況として「人間関係が改善した」と答えた人が37パーセント、「業務内容に満足している」が32パーセント、「残業時間が減った」が29パーセント、「休日・休暇が増えた」という回答もあり、おおむね良好な結果が並んでいる。
これは筆者の見立てだが、そもそも退職代行に頼らざるを得ないほど追い詰められていた職場環境と比較すれば、転職先の労働条件が改善したと感じやすいのは自然な流れだろう。
無理を重ねて心身をすり減らす職場に留まり続けるより、環境を変える決断そのものが、結果的にプラスに働いているケースが多いと考えられる。
退職代行を使っても給料や退職金はきちんともらえるのか?
結論、退職代行を使っても、原則として働いた期間分の給料は支払われる。
労働基準法第24条では、賃金は通貨で直接労働者に全額を支払わなければならないと定められており、これは退職代行を利用した従業員に対しても同様に適用される。
入社後に1日でも働いていれば、所定の支払日に確定している給与を受け取る権利があるということだ。
ただし、いくつか注意点もある。
- 有給休暇がない状態で退職代行を利用する場合、退職日までは欠勤扱いとなり、その期間分の給与は発生しない
- 社会保険料は日割り計算されないため、月の途中で退職すると保険料負担で手取りが目減りすることがある
- 給与が当月前払いの会社では、勤務していない日数分の返金を求められるケースがある
退職金についても、支給要件を満たしていれば退職代行の利用を理由に支払いを拒否されることは基本的にない。
ボーナスについても同様で、支給要件を満たしていれば受け取れるが、多くの企業では「支給日に在籍していること」が条件になっているため、ボーナス支給日より前に退職すると受け取れない点は覚えておきたい。
万が一給料が支払われない場合は、労働基準監督署への相談や、内容証明郵便による請求、弁護士への相談といった対処法がある。
民間業者と弁護士・労働組合運営の代行サービスで何が違うのか?
退職代行サービスには、民間業者・労働組合・弁護士事務所という3つの運営形態があり、対応できる範囲が法律で明確に分かれている。
| 運営形態 | 会社との交渉 | 主な費用相場 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 民間業者 | 原則できない(非弁行為に該当) | 1〜5万円程度 | 退職の意思を伝えるのみ |
| 労働組合 | 団体交渉権により可能 | 2.5〜3万円程度 | 有休交渉などにも対応 |
| 弁護士 | 代理人として交渉可能 | 5〜10万円程度 | 未払い残業代請求なども可能 |
弁護士資格を持たない民間業者は、弁護士法第72条が定める非弁行為規制により、有給休暇の消化交渉や退職日の調整といった「交渉」を行うことができない。
これは元ネタの弁護士監修記事でも明確に指摘されている点であり、希望どおりの条件で退職したい場合は、労働組合や弁護士が運営するサービスを選ぶ方が確実性は高まる。
このルールを軽視した業者が、後述する事件のように刑事責任を問われる事態にまで発展したことは、この記事の読者にとっても他人事ではない。
退職代行モームリ逮捕事件が業界に与えた影響とは?
結論、業界最大手クラスとされていた「退職代行モームリ」を運営する株式会社アルバトロスの当時の代表が2026年2月に逮捕され、業界全体の信頼性が問われる事態になっている。
以下は各種報道および東京商工リサーチの調査で確認できる時系列だ。
- 2025年10月22日:警視庁保安課が弁護士法違反(非弁行為・非弁提携)の疑いでアルバトロス本社などへ家宅捜索
- 2026年2月3日:当時の代表取締役・谷本慎二氏と従業員である妻が、弁護士法違反の疑いで逮捕
- 2026年4月1日:代表取締役が谷本氏から浜田優花氏に交代
- 2026年4月23日:サービスの営業再開を発表
紹介料を受け取ったうえで、退職に伴う交渉を希望する利用者を弁護士へあっせんしていた疑いが持たれていた、と報じられている。
モームリは2022年2月創業で、2025年1月期には売上高約3億3000万円をあげていたとされる業界最大手クラスのサービスであり、若者向けの広告展開などで高い知名度を誇っていただけに、業界内外に大きな衝撃を与えた。
なお運営会社側は、起訴されたのはあくまで紹介料の受領についてであり、退職代行サービスそのものへの司法判断が示されたわけではないという立場を示している(詳細な起訴内容や係争状況は、警視庁および同社の公式発表で最新情報を確認してほしい)。
この事件を受け、前述の東京商工リサーチの2026年4月調査では、退職代行業者からの連絡があっても「取り合わない」と回答した企業が3割(30.4パーセント)にのぼり、実際に残業代請求や退職日調整など非弁行為に触れる可能性のある通知を受けた経験がある企業も3割(30.4パーセント)存在することが明らかになっている。
これは何を意味するのか。
利用者個人が罪に問われるわけではないものの、「どの業者を選ぶか」という入口の判断が、これまで以上に重みを持つ時代に入ったということだと筆者は捉えている。

筆者としての考察・今後の見通し
ここからは、多様な企業の事例や労働環境データを一個人としてフラットに調べ続けてきた筆者としての率直な所感を述べたい。
企業の人事アンケートの結果だけでなく、当事者側の実態調査、そして今回のモームリ事件のような業界の一次情報にまで目を通したうえでの見立てだと受け取ってほしい。
まず断言できるのは、「退職代行を使った=転職に失敗する」という単純な図式は成立しないということだ。
東京商工リサーチの調査が示す企業側の「慎重姿勢」は、あくまでアンケート上の建前的な回答である可能性が高いと筆者は考える。
実際の採用の現場では、面接官は退職代行の利用歴そのものより、候補者が語る退職理由の納得感や、これまでの実務経験、志望動機の一貫性を重視しているのではないか。
93パーセントという「質問されなかった」という数字は、まさにその裏付けだと筆者は捉えている。
もう一点、個人的に強調しておきたいのは、退職代行の利用は「逃げ」ではなく「意思決定」だという視点だ。
心身をすり減らしながら退職を切り出せずにいる状態こそが、長期的なキャリア形成にとって最大のリスクだと筆者は考える。
労働条件の改善を実感している人が3割を超えているという事実は、環境を変える決断そのものが正しかったことの証明ではないだろうか。
一方で、モームリの逮捕事件は、この業界が2016年頃の登場から10年ほどをかけて急拡大してきた過程で、法整備や業者の自浄作用が追いついていなかったことを浮き彫りにしたとも言える。
コロナ禍以降、退職代行の利用は20代を中心に一気に広がったが、その急成長の裏側で、非弁行為というグレーゾーンの運用がまかり通ってきた面は否めないと筆者は見ている。
今回の逮捕をきっかけに、労働組合や弁護士が運営する、法的に交渉権限を持つサービスへと利用者の意識がシフトしていく可能性は高いだろう。
今後3年ほどのスパンで見れば、価格の安さだけで選ばれてきた民間業者主体の市場から、交渉力と法的な裏付けを重視する市場へと、業界の勢力図そのものが変わっていくのではないかと筆者は予測している。
もちろん、退職代行の利用にはコストや心理的な負担といった現実的なデメリットも存在する。
だからこそ、依頼前に退職条件を明確にし、有給休暇の残日数を確認し、必要であれば労働組合や弁護士が運営するサービスを選ぶといった準備が、後悔のない転職への近道になると筆者は考える。
今後、退職代行の利用者数がさらに増えていけば、企業側の「慎重姿勢」自体が徐々に薄れていく可能性もあるだろう。
労働市場全体で人材の流動性が高まる中、退職代行の利用歴だけを理由に有望な人材を採用しないという選択は、企業側にとってもむしろ機会損失になりかねない時代が来ていると筆者は見ている。
よくある質問
退職代行を使うと転職先にバレますか?
転職先にバレる可能性は極めて低い。代行業者や弁護士には守秘義務があり、前職の会社が退職の経緯を他社に伝えることは通常なく、個人情報保護の観点からも前職調査自体が一般的ではなくなっている。
退職代行を使うと必ず採用に不利になりますか?
必ず不利になるわけではない。企業アンケートでは慎重な姿勢を示す回答が多い一方、実際に退職代行を利用した人の68パーセントがすでに転職を実現しており、面接で利用歴を聞かれなかった人も93パーセントにのぼる。
退職代行を使っても給料や退職金はもらえますか?
働いた分の給料は労働基準法により原則として支払い義務がある。退職金やボーナスも、会社の支給要件を満たしていれば退職代行の利用を理由に拒否されることは基本的にない。
まとめ
退職代行サービスの利用が転職や再就職に与える影響について、企業側のアンケートでは慎重な姿勢が目立つ一方、実際の当事者調査ではおよそ7割が転職を実現し、面接で利用歴を問われることもほとんどないという実態が見えてきた。
給料や退職金についても、法律上の支払い義務があるため、正当な理由なく受け取れなくなることはない。
一方で、退職代行モームリの逮捕事件が示すように、業者選びそのものが以前にも増して重要になっているのも事実だ。個別の事件の詳細や係争状況は、報道各社や公式発表で最新情報を確認してほしい。
大切なのは、退職代行を使うこと自体を恐れるのではなく、自分の状況に合ったサービス形態を選び、条件を整理したうえで次の一歩を踏み出すことだ。
自分らしいキャリアを切り拓く選択に、遠慮はいらない。


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