結論から言うと、障害者雇用のリモートワークは「拡大」と「揺り戻し」が同時に進む過渡期にあります。
コロナ禍で一気に広がった障害者雇用のテレワークって、実際どこまで定着しているんでしょうか。
「通勤できる範囲に自分に合う仕事がない」「オフィスの音や光が辛い」——そんな悩みを抱えていた方にとって、テレワークはまさに救いだったわけです。
でも一方で、大手企業を中心に「やっぱり出社してほしい」という揺り戻しも出てきている。
この記事では、企業の人事担当者と当事者の双方に向けて、両面をなるべく具体的な数字や一次情報の出典とともに整理していきます。
障害者雇用のリモートワークは今どれくらい広がっているのか?

コロナ禍以降、障害者向けのテレワーク求人は増加傾向にあり、従来は通勤可能な範囲に限定されていた採用対象が全国に広がったと言われています。
背景には地域差の問題があります。
厚生労働省の調査によると、令和6年時点での法定雇用率達成企業の割合は、首都圏で約41.8%、京阪神で約46.1%にとどまる一方、九州・沖縄地方は約57.8%、東北地方は約53.8%と、地方のほうが高い傾向にあると報告されています(正確な最新値は厚労省の公式発表でご確認ください)。
これ、一見意外に思えるかもしれませんが、理由はシンプルです。
- 都市部:障害者雇用の「競争」が激しく、枠が埋まりやすい
- 地方:求人自体が少なく、就労可能な障害者にとって選択肢が限られている
つまりテレワークは、地方在住の障害者にとって「都市部の企業で働ける」という新しい扉を開いた、というわけです。
求人が多い職種としては、データ入力・事務作業、Webサイト制作・管理、プログラミング・システム開発、コンテンツ作成・編集、カスタマーサポートなどが目立ちます。
かつては在宅で完結しづらいとされていた業務も、オンライン対応の一般化によって選択肢に加わってきました。
障害種別によってリモートワークの向き不向きはあるの?
障害者雇用でのリモートワークを考えるとき、見落とせないのが「障害特性との相性」です。
身体障害のある方はテレワーク適性が非常に高いとされ、データ入力やプログラミングといった業務で力を発揮しやすいとされています。
移動そのものが負担になるケースが多いため、通勤がなくなるメリットはかなり大きいわけです。
精神障害や発達障害のある方も、テレワークとの相性は高いと考えられています。
オフィス環境の音や光、対面のやり取りに強いストレスを感じやすい方にとって、自宅という慣れた環境は集中力を保ちやすい場になるようです。
一方で、知的障害のある方については、対面でのサポートが効果的なケースが多く、出社とテレワークを組み合わせたハイブリッド型が向いていると言われています。
私見になりますが、この「障害種別ごとの向き不向き」を無視して一律にテレワークを推進するのは危険だと感じます。
本人の特性に合わない形で在宅勤務を強いれば、かえって孤立感やコミュニケーション不全を招きかねません。企業側には、画一的な制度ではなく個別対応の発想が求められると考えます。
企業側にとってのメリットは、次のようなものが挙げられます。
- 採用対象が全国に広がり、地方の人材にもアプローチできる
- バリアフリー化などの環境整備コストを削減できる
- 法定雇用率達成に加え、ダイバーシティ推進企業としてのブランディング効果が期待できる
障害者側にとってのメリットは、次の通りです。
- 通勤負担の軽減と体調管理の両立
- 慣れた環境でのパフォーマンス向上
- 地方在住者の就労機会拡大
単なる「働きやすさの向上」ではなく、これまで諦めていたキャリアの選択肢そのものを広げる働き方だと言えるでしょう。
出社回帰の波は障害者雇用にも及んでいるのか?

ここが今、多くの当事者や企業担当者が気にしているポイントだと思います。海外大手IT企業を中心に、出社回帰の動きが広がっているのです。
メタの最高経営責任者マーク・ザッカーバーグ氏は、オフィスでの対面パフォーマンス向上を明言し、2023年9月からハイブリッド勤務を導入しました。
日本経済新聞の報道によれば、コンサルティング大手のアクセンチュアは2025年6月から週5日の出社を原則義務化し、LINEヤフーも順次、出社回数の拡大を求めているとされます。
より詳しく見ると、アクセンチュアは従来週3日程度の出社を求めていましたが、2025年6月からは顧客先または自社オフィスへの週5日出社を全社的に義務化する方針へと転換しました。
日本企業にもこの流れは波及しています。LINEヤフーは2024年12月にフルリモート勤務の廃止を発表し、2025年4月からカンパニー部門の従業員には原則週1回、開発部門やコーポレート部門には原則月1回の出社を求める方針に切り替えました。
これらの企業方針は各社の公式発表や日本経済新聞などの報道に基づくものですが、その後さらに見直される可能性もあるため、最新の運用は各社の公式情報で確認するのが確実です。
企業がテレワークを見直す理由としては、次のようなものが挙げられています。
- 対面コミュニケーションによる生産性向上
- 新人教育の効率化
- 企業文化の維持
- 目視での業務評価への回帰
特に日本企業には、目で見て評価したいという対面主義的な傾向が根強いという指摘もあります。
このニュースは、障害者雇用の観点から見ると軽視できません。
通勤自体が大きなハードルになる身体障害のある方、満員電車や対面の緊張が症状悪化につながりやすい精神障害のある方、地方在住で都市部企業にテレワークで雇用されている方にとって、出社回帰は「働く機会の喪失」に直結しかねないからです。
合理的配慮とテレワーク継続はどう扱われるのか?
ここで重要になるのが、障害者雇用促進法や障害者差別解消法に基づく「合理的配慮」との関係です。2024年4月からは、民間事業者にも合理的配慮の提供が法的に義務化されました。
障害特性により出社が困難な方に対して、テレワークの継続を認めることが合理的配慮の一環として求められるケースがあります。
全社的にテレワークを廃止する方針を打ち出したとしても、障害のある従業員に対しては個別の配慮が必要になる可能性が高いということです。
ただし合理的配慮には「過重な負担にならない範囲」という条件も付きます。業務の性質上どうしてもテレワークでの遂行が難しい場合や、企業側に過度な負担が生じる場合は、テレワークを認めないことが合理的な判断とされる可能性もあります。
さらに、テレワーク制度がすでに就業規則に明記されている場合、それを廃止するには就業規則の変更手続きが必要になる点も押さえておきたいところです。
原則として、雇用主が従業員の合意なく労働条件を不利益に変更することはできないとされていますが、変更後の就業規則を周知し、その変更が合理的なものであれば、合意なしでの変更が認められる場合もあります。
合理性の判断では、次のような要素が総合的に考慮されます。
- 従業員が受ける不利益の程度
- 変更の必要性
- 変更後の内容の相当性
- 労使間の交渉状況
生産性低下のみを理由とした一律のテレワーク廃止は、不合理と判断される可能性があるとされています。
大切なのは、企業と従業員が一方的な通告ではなく、建設的な対話を重ねて解決策を探ることだと言えるでしょう。
法定雇用率の引き上げはテレワークにどう影響する?
制度面の動きも押さえておく必要があります。障害者の法定雇用率は2024年4月に2.5%へ、2026年7月からは2.7%へと段階的に引き上げられる予定です。対象となる事業主の範囲も拡大しています。
法定雇用率の計算においては、在宅勤務やテレワークで働く障害者も、所定労働時間を満たしていれば実雇用率に算入できる仕組みになっています。企業にとってテレワークは、雇用率達成の有効な手段であり続けているわけです。
また2024年4月からは、週10時間以上20時間未満で働く重度身体障害者・重度知的障害者・精神障害者も雇用率の算定対象に加わりました。短時間労働とテレワークを組み合わせることで、より柔軟な働き方が実現しやすくなっています。
法定雇用率を達成できなければ、納付金の負担増や企業名の公表といったリスクが生じます。
こうした背景から、一般従業員向けの出社回帰の流れがある一方で、障害者雇用の文脈においてはテレワークを維持・拡充する企業も一定数存在すると見られます。
現場ではどう工夫されている?コミュニケーションと運用の実際

障害者雇用でのリモートワークには、いくつかの現実的な課題もあります。最も指摘されるのがコミュニケーション不足です。
対面での機会が減ることで、指示の伝達ミスや孤立感が生じやすくなります。特に発達障害のある方の場合、テキストだけのやり取りでは意図を誤解してしまうケースがあると報告されています。
対応策としては、次のような組み合わせが有効とされています。
- ビデオ会議ツールで非言語情報を補う
- チャットツールで即時性の高い連絡を行う
- タスク管理ツールで進捗を可視化する
もう一つの課題が情報セキュリティです。VPN接続の義務付けや機密情報へのアクセス制限、二要素認証の導入といった対策が求められます。
在宅勤務の環境整備についても、テレワーク手当の支給や、障害者作業施設設置等助成金など公的制度の活用、会社支給品と自己負担分の明確な区別といった工夫が必要になります。
厚生労働省がまとめた資料には、実際にテレワークで働く障害者の事例として、次のようなケースが紹介されています。
- 進行性の難病により手先でのわずかな操作しかできない身体障害のある方が、週10数時間程度のテレワークで広報業務(メールマガジンやSNS、ブログの執筆・編集)を担当しているケース
- 首都圏に本社を置く企業が、通勤可能な範囲での障害者採用が難しくなったことから地方在住の障害者をテレワークで雇用する仕組みを整え、精神障害・発達障害のある方を中心に約30人を雇用しているケース
- 左半身に麻痺のある身体障害の方が、パソコンを片手で操作しながら週3日の在宅と週1日の出社を組み合わせ、インターネット上の情報を収集・整理するキュレーション業務に就いているケース
これらはいずれも厚生労働省の委託事業や公表資料をもとに紹介されているもので、業務を細かく切り出し、本人の残存機能や通勤可否に合わせて勤務形態を柔軟に設計している点が共通しています。
企業によっては、こうした個別設計に加えて週1回程度の対面ミーティングを組み合わせ、心理的な距離を縮める工夫をしているケースもあります。孤独感が強いイメージのあるテレワークだからこそ、あえてコミュニケーションを豊かにする設計を意識している例です。
私見としては、業務を細分化・マニュアル化する取り組みは、障害の有無にかかわらず新人教育のハードルを下げる効果も期待でき、テレワーク下での属人化を防ぐという点で高く評価できる工夫だと感じます。この視点は、今後のテレワーク雇用を考えるうえで大きなヒントになるでしょう。
【私見】テレワーク廃止の波の中で障害者雇用はどうなるか
ここからは、書き手としての考察を書いておきたいと思います。
一般従業員向けのテレワークが縮小傾向にあるからといって、障害者雇用向けのテレワークまで同じペースで縮小するとは、私は考えていません。
理由は単純で、障害者雇用の文脈では「テレワークをやめる=法定雇用率達成が難しくなる」というダイレクトな経営リスクが伴うからです。
一般従業員のテレワーク縮小は「生産性」や「企業文化」という比較的曖昧な理由で語られがちですが、障害者雇用の場合は合理的配慮の法的義務、雇用率未達成時の納付金や企業名公表リスクという、より具体的な制約が働きます。
この非対称性は、今後も企業の意思決定に影響を与え続けるはずだと考えられます。
一方で、楽観はできません。「全社的な出社回帰」の空気の中で、障害のある従業員だけが例外的にテレワークを続けることに対して、社内で心理的なプレッシャーがかかる可能性は十分にあります。
制度上は合理的配慮が守られていても、職場の空気として「自分だけ出社していない」という負い目を感じてしまう当事者が出てくることは、想像に難くありません。
だからこそ、企業側には「テレワークを続けられる従業員がいる」ことを特別視せず、当たり前の選択肢として位置づける組織文化づくりが求められると考えます。
個人的には、ハイブリッド勤務という中間的な選択肢が今後さらに重要性を増していくのではないかと見ています。体調の良い日は出社し、調子が優れない日は在宅にするといった柔軟な運用は、企業にとっても従業員にとっても現実的な落としどころになりやすいからです。
もう一つ付け加えたいのは、地方在住の障害者にとってのリモートワークの意味です。
単に「通勤しなくていい」という利便性の話ではなく、これまで選べなかった専門職や都市部企業のキャリアに手が届くという、人生の選択肢そのものが広がる話だと私は捉えています。この視点は、テレワーク廃止の議論において見落とされがちですが、非常に重要なポイントだと感じます。
また、海外の状況と比較すると、日本では合理的配慮の義務化がようやく2024年に本格スタートしたばかりで、制度としてはまだ発展途上の段階にあると言えます。
欧米ではより早い段階から障害者の在宅勤務を権利として位置づける議論が進んでいた経緯があり、今後日本でもこうした国際的な動向を参考にしながら、テレワークを「例外的な配慮」ではなく「標準的な働き方の選択肢」として制度に組み込んでいく方向に進むのではないかと筆者としては見ています。
まとめ
障害者雇用でのリモートワークは、通勤負担の軽減や地方就労機会の拡大、障害特性に合わせた柔軟な働き方を実現する重要な選択肢として広がってきました。
一方で、メタやアクセンチュア、日本ではLINEヤフーなどに見られる出社回帰の流れは、障害者雇用の現場にも影響を及ぼしつつあります。
ただし、合理的配慮の法的義務化や法定雇用率の段階的引き上げ(2026年7月から2.7%)といった制度的な後押しにより、障害者雇用の文脈ではテレワークが今後も一定の存在感を保ち続ける可能性が高いと考えられます。
当事者にとっては、自分の障害特性と業務の関係を整理し、企業との建設的な対話を重ねながら、テレワーク継続やハイブリッド勤務といった現実的な落としどころを探っていくことが、これからますます重要になっていくでしょう。
よくある質問
障害者雇用でリモートワークを行うと法定雇用率にカウントされますか?
所定労働時間を満たしていれば、勤務形態に関わらず在宅勤務・テレワークで働く障害者も実雇用率に算入できる仕組みになっています。
企業が全社的にテレワークを廃止したら、障害者も出社しないといけませんか?
一律の廃止であっても、障害特性により出社が困難な場合は合理的配慮としてテレワーク継続が求められることがあります。個別の事情に応じた対応が原則です。
どの障害種別がリモートワークに向いていますか?
身体障害のある方は非常に高い適性があるとされ、精神障害・発達障害のある方も高い適性があると言われています。知的障害のある方は対面サポートを組み合わせたハイブリッド型が効果的とされています。


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