退職代行サービスを起業するには?必要な資格と仕事内容を解説

オフィスでノートパソコンを前に退職代行ビジネスの起業を検討するビジネスパーソン 未分類

退職代行サービスの起業に、国家資格や行政の許認可は不要だ。

だが2026年に表面化した「モームリ」の弁護士法違反事件が示す通り、経営を続けられるかどうかは非弁行為というリスクとどう向き合うかにかかっている。

退職代行の起業に資格は必要?結論から解説

結論として、退職代行サービスの運営そのものに国家資格や行政の許認可は要らない。

有料職業紹介事業や労働者派遣事業のように行政への届出・許可が求められるビジネスとは違い、退職代行は形式上、個人でもすぐに始められる業種に分類される。

必要な資格が存在しないという事実は、そのまま参入障壁の低さに直結している。

店舗も在庫も持たない無形サービスであることも大きな特徴だ。

Webサイトと問い合わせ窓口(電話・メール・LINEなど)、そして最低限の広告運用さえあれば、事業をスタートさせること自体は難しくない。

事務所を借りる必要もないため、初期コストを大きく抑えられる。

だからこそ副業やスモールスタートとして選ばれやすい業種になっている。

筆者は長年、多様な業種の参入障壁と収益構造を趣味として比較検証してきたが、ここまで「始めるだけ」のハードルが低いビジネスは珍しい。

ただし、この気軽さがそのまま「稼げる」ことを意味しない点には、強く注意を促したい。


退職代行の仕事内容とは?基本業務の流れ

退職代行の仕事内容は、大きく「依頼者からのヒアリング」「企業への意思伝達」「必要書類のフォロー」の3つで構成される。

一般的な業務フローは次の通りだ。

  • 依頼者から相談・申込みを受ける
  • 氏名・勤務先・雇用形態・退職希望日など必要な情報を共有してもらう
  • 利用料金の支払いを受ける(多くの業者が先払い制)
  • 打ち合わせを経て、会社へ退職の意思を伝達する
  • 貸与品の返却や離職票などの書類手続きをフォローする
  • 退職後のアフターフォローを行う場合もある

この流れ自体はシンプルで、既存サービスを参考にしながら模倣しやすい構造だ。

だからこそ「誰でも始められそうだ」と感じる起業希望者が増え、市場参入が相次いでいる背景がある。

しかし、この業務内容の中には、運営者が絶対に超えてはならない一線が存在する。

それが「交渉」と「通知」の境界線である。


なぜ起業に資格が問題になる?非弁行為のリスクを解説

退職代行ビジネスを検討するうえで最も重要な論点が、弁護士資格を持たない者が「交渉」を行うことで生じる非弁行為のリスクだ。

弁護士法第72条は、報酬を得て法律事務(交渉・請求・和解など)を扱うことを弁護士以外に禁じている。

これに違反すると、弁護士法第77条により2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金という刑事罰の対象になり得る。

※画像はAIによるイメージ

具体的に非弁行為とみなされやすい行為には、次のようなものがある。

  • 有給休暇の消化条件についての交渉
  • 退職日の調整交渉
  • 未払い賃金・残業代の請求交渉
  • 損害賠償請求への対応や示談交渉

民間業者として起業する場合、対応できるのはあくまで「退職の意思を伝えること(通知行為)」までだ。

この一線を越えて会社側と条件をすり合わせてしまうと、資格がないまま法律事務を扱ったとみなされるリスクが高まる。

法律専門家による解説でも、退職代行が非弁行為に問われるかどうかは「本人の意思を伝える使者にとどまっているか、それとも会社との間で条件のすり合わせ=交渉に踏み込んでいるか」という一点に集約されるとされている。

つまり、業務範囲をどこで線引きするかという設計そのものが、法令遵守と経営存続を左右する。

起業を検討する立場からすれば、この境界線をどう業務フローに落とし込むかが経営そのものを左右すると言っていい。


労働組合型・弁護士型との違いは?運営タイプ別に比較

退職代行は運営主体によって「民間」「労働組合」「弁護士」の3タイプに分かれ、それぞれ起業のハードルと対応できる業務範囲が大きく異なる。

運営タイプ起業のしやすさ対応できる範囲
民間資格不要で最も参入しやすい退職の意思伝達のみ
労働組合実態ある組織運営が必要団体交渉権に基づく一定の交渉が可能
弁護士弁護士資格が必須で難易度最高交渉・請求・法的対応まで全般

労働組合型は、日本国憲法第28条が保障する団体交渉権を根拠に、有給消化や退職条件についてある程度の交渉が可能とされてきた。

ただしこれはあくまで憲法解釈に基づくものであり、弁護士のように法律で明確に交渉権が定められているわけではない。

近年は「実態のない形式だけの労働組合」の適法性が問題視される場面も出てきており、東京弁護士会も2024年11月、退職代行サービスと弁護士法違反に関する注意喚起を公表している。

これから労働組合型で起業しようとする場合は、組織運営の実態づくりが不可欠になる。

弁護士型は最も対応範囲が広く、退職交渉から未払い賃金請求、損害賠償対応まで一貫して扱える。

その分、起業のハードルは弁護士資格の取得という現実的にほぼ不可能な壁があり、無資格者が新規参入する選択肢としては現実的ではない。

民間型で起業する場合は、この3タイプの違いを正しく理解したうえで、労働組合型・弁護士型を「競合」として位置づけ、自社がどこまでの範囲でサービス提供するのかを明確に線引きする必要がある。


退職代行の料金相場と価格競争の実態

退職代行の収益構造は「対応件数×単価」から広告費・人件費・運営費を差し引いたシンプルな単発課金型だが、この単純さゆえに価格競争が激化しやすい。

料金相場は運営タイプによって差があり、筆者の見立てでは民間業者は2万円前後、労働組合は2〜3万円程度、弁護士は5万円以上が目安とされる。

近年では3,000円程度で利用できるAI活用型の格安サービスも登場しており、価格だけでの差別化はますます難しくなっている。

集客面でも課題は大きい。

アフィリエイト広告を使う場合、1件の依頼獲得につき1万円前後の成功報酬を設定している業者も多いとされ、成功報酬2〜3万円という単価では、広告費だけで利益の大半が消えるケースも珍しくないと筆者は見ている。

なお、これらの料金・広告費の水準はいずれも一次的な統計に基づくものではなく、業界動向を踏まえた筆者の推定値である点には留意してほしい。


モームリ事件とは?起業希望者が知るべき教訓

こうした価格競争の中で認知を大きく広げた事例として、退職代行モームリが挙げられる。

同社を運営する株式会社アルバトロス(横浜市)は、X(旧Twitter)やYouTubeなどのSNSを活用した情報発信を継続し、広告に依存しすぎない集客基盤を築いてきたことで知られている。

しかし2026年2月3日、アルバトロスの前社長・谷本慎二氏と、執行役員だった妻の志織氏が、弁護士法違反(非弁提携)の疑いで警視庁に逮捕された。

報道によれば、依頼者のうち残業代請求など法的対応が必要な案件を、顧問契約を結んでいた弁護士法人「オーシャン」代表の梶田潤弁護士へ有償で紹介していた疑いが持たれた。

紹介料は利用者1人あたり1万6,500円で、労働組合への賛助金やアフィリエイト広告の業務委託料などの名目で処理されていたとされる。

2026年4月1日付で谷本氏は代表取締役を辞任し、後任に浜田優花氏が就任、同月23日には経営体制を見直したうえでサービスの新規受付を再開した。

その後、5月26日に谷本夫妻とアルバトロスの初公判が開かれ、被告側はいずれも起訴内容を認めている。

弁護士の梶田被告についても5月28日の初公判で起訴内容を認め、東京地裁は6月5日、求刑通り懲役1年6か月・執行猶予3年、法人の弁護士法人には罰金150万円の判決を言い渡した。

一方、谷本夫妻とアルバトロス本体については6月5日に論告求刑が行われ、検察は谷本氏に懲役2年、志織氏に懲役1年6か月、法人に罰金200万円を求刑して結審しており、判決は2026年8月28日に言い渡される予定だ。

※画像はAIによるイメージ

もしこの事件がなければ、業界を牽引する存在であり続けた可能性は高いと筆者は考える。

この一件は、起業を考える人にとって象徴的な教訓を含んでいる。

集客に成功しても、収益化の過程で法律の一線を越えれば、事業そのものが崩壊しかねないということだ。


退職代行起業の初期費用はいくら?他士業連携という選択肢

一般的な民間型の退職代行を個人で立ち上げる場合、初期費用は大きく分けて「Webサイト制作費」「決済システム導入費」「広告初期費用」の3項目が中心になる。

簡易なLP(ランディングページ)を外注すれば10〜30万円程度、自作すれば数千円〜数万円程度に抑えられるというのが筆者の見立てだ。

決済代行サービスの導入は月額数千円からのプランが多く、初期の在庫や設備投資が不要な分、他業種の起業と比べて総額は小さく収まりやすい。

ただし、この「安さ」は同時に「同業他社が増えやすい」ことも意味しており、初期費用の低さが差別化の武器にはならない点は忘れてはならない。

もう一つ、筆者が独自の視点として付け加えたいのが「士業連携型」という選択肢だ。

これは民間業者が退職の意思伝達までを担い、交渉が必要になった時点で提携する弁護士や社会保険労務士に案件を橋渡しする仕組みで、モームリの事件以降、業界内でその是非が改めて議論されるようになった。

ポイントは、単なる「紹介」で紹介料を受け取れば非弁提携とみなされるリスクがある一方、正規の顧問契約や広告料としての位置づけを明確にすれば、適法な連携モデルとして成立し得るという点だ。

たとえば社会保険労務士と顧問契約を結び、労務相談への対応を報酬体系として明確に切り分けている業者も存在するとされ、こうした「紹介料」ではなく「顧問料」として構造化する発想が、適法性を担保するうえでの一つの目安になり得ると筆者は考えている。

この線引きの設計こそが、これから起業する事業者にとって最大の実務課題になると筆者は考えている。

士業マッチングサービスや人材紹介業など、他業種の「紹介モデル」がどのように適法性を担保しているかを研究することは、退職代行の事業設計においても大いに参考になるはずだ。


【考察】退職代行の起業は「始めやすさ」と「続けにくさ」が表裏一体

ここからは、長年さまざまな業界の起業モデルを研究してきた筆者としての見解を述べたい。

退職代行というビジネスは、参入障壁の低さと運営難易度の高さが極端なまでに乖離している点に最大の特徴があると考えられる。

資格不要・低コストという条件は、たしかに起業初心者にとって魅力的に映る。

しかし実務では、「意思の伝達」と「交渉」の境界線を毎日、しかも即座に判断し続けなければならない。

この判断業務こそが、実質的には弁護士的な専門性を要求する仕事だと筆者は感じている。

さらに、東京商工リサーチが2026年3月31日から4月7日にかけて実施した企業向けアンケート調査(有効回答6,425社)では、弁護士や労働組合以外の退職代行業者から連絡があっても取り合わないと回答した企業が30.4%にのぼった。

同調査では別の設問として、退職代行から連絡を受けた企業のうち、残業代請求や退職日調整といった非弁行為に触れる可能性のある通知を実際に受けた経験があると答えた企業も、偶然ながら同じ30.4%だったことが分かっている。

つまりこの2つの30.4%は、それぞれ異なる質問への回答結果であり、企業の目が非弁リスクに対して確実に厳しくなっている実態を、二重の角度から裏付けている数字だと筆者は受け止めている。

この数字は、民間業者として起業した場合に直面する、集客以前の壁を如実に示していると言えるだろう。

今後の見通しとしては、AI活用による格安化と、非弁行為リスクへの社会的な監視強化という、相反する2つの流れが同時に進むと筆者は予測する。

価格競争は避けられない一方で、法令遵守の甘い業者に対する行政・司法のチェックは今後さらに厳しくなる可能性が高い。

これから退職代行での起業を検討するのであれば、「安く早く始める」ことよりも、「どこまでの業務を扱い、どこから弁護士や労働組合に橋渡しするか」という業務設計を最初に固めることが、結果的に事業の寿命を延ばす近道になると筆者は考える。


まとめ

退職代行サービスは、資格や許認可がなくても形式上は誰でも起業できるビジネスだ。

しかし仕事内容の中核には、有給消化や賃金請求といった「交渉」に踏み込むと非弁行為とみなされるリスクが常につきまとう。

2026年に表面化したモームリ事件は、弁護士側がすでに有罪判決を受け、運営会社側の判決も8月28日に控えているという意味で、この業界のリスクを象徴する現在進行形の事案だ。

民間・労働組合・弁護士という3つの運営タイプそれぞれの対応範囲を理解し、価格競争や集客コストの高さ、さらには他士業との連携モデルの適法性も踏まえたうえで、法的な一線を守れる業務設計を組み立てられるかどうかが、退職代行起業の成否を分けるポイントと言えるだろう。


よくある質問

退職代行の起業に資格は必要ですか?

国家資格や行政の許認可は不要で、個人でも開業自体は可能だ。

ただし、交渉行為を行うと非弁行為とみなされるリスクがあるため、業務範囲の設計が重要になる。

退職代行業者はどこまでの業務を行えますか?

民間業者が対応できるのは、退職の意思を会社に伝える「通知行為」までとされている。

有給消化や未払い賃金の交渉には、弁護士や労働組合の関与が必要になる場合が多い。

モームリの事件は現在どうなっていますか?

2026年2月に運営会社アルバトロスの前社長夫妻と提携弁護士が弁護士法違反の疑いで逮捕され、その後起訴された。

提携先だった弁護士には2026年6月5日、東京地裁が懲役1年6か月・執行猶予3年の判決を言い渡し済みだ。

前社長夫妻と運営会社本体については同日に論告求刑が行われ、判決は2026年8月28日に言い渡される予定であり、現時点では確定判決には至っていない。

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